2006年01月21日

大英図書館

手のあいている者は窓の外を見ろ。
大雪だ。


こんなこともあろうかと、冷水を使う家事を昨日すべてすませておいた。
おかげで今日は、帰国以来なかったほどにゆっくりできる。

しかしこんな大雪の中、となりの家の双子の女の子たちとその友達がころげまわって遊んでいる。
ええい、小学校低学年の子どもはバケモノか!?
それにつきあうお父さんも大変だなぁ。

さておき、このあいた時間を利用して、ロンドンのことをもうちょっと書いておく。
だいたいのことは昨日の記事でまとめてしまったつもりなので、これは番外編あつかいにでもなるのかな。

私がいたカムデン地区のフラットから大英博物館まで歩いて15分ということは、こちらの記事で、すでに書いた。
そして、大英図書館も、逆方向ではあるものの、やはり徒歩10分のところにあった。

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イギリスにしてはモダンな建物。
もともと大英図書館は、大英博物館の一部だった。
蔵書の増加に堪えきれなくなった1990年代後半、移築が決定した。
落成は1997年らしい。

内部もかなり現代的なつくりになっている。
しかし歴史的に重用な手稿などが、それこそくさるほど所蔵されている。
その代表例はマグナ・カルタ(の一部)、リンディスファーン福音書、ジェーン・オースティンの日記や手紙、そしてルイス・キャロル(ドジソン博士)の「不思議の国のアリス」の完全オリジナルなど。

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↑ルイス・キャロルによる「アリス」の第一章。

「アリス」と聞いたらすぐにイメージするテニスンのアリスとは一味ちがう。
だが、私はテニスンのアリスに興味があるだけだ。というテニスン至上主義の方も、一度はルイス・キャロルのアリスをご覧になってみてはいかがだろう。
この素人っぽい線こそが、「アリス」の源流。
それにしてもちょっと疑問なのは、ドジスン博士がアリス・リデルに「アリス」のお話を物語ってから、実際に書き上げてプレゼントするまで2年。
その時点ではアリス・リデルは確か13歳。
うーん……アリス・リデル、まだ興味あったのかな? その物語に。
「数学の論文をおろそかにしてまで、私に2年前のおとぎ話を贈ろうなんて……、
 やることが、筋違いではなくて?」

……ま、ドジソン博士はアリス・リデルにプロポーズしたぐらいだから、何か下心があったのかもしれない(逆に本業をおろそかにしなかったから2年もかかったのだろうし)。

この他にヘンデル「メサイア」のオリジナルスコア、ビートルズの落書き入り予定表など、音楽関係の資料も充実している。
さらにコーランや中国の経典、日本の浮世絵まである。
これらはすべて2階の常設展示室で見ることができる。

そこにたどりつくには、メインロビーを通りぬけることになるのだが、ここも雰囲気がいい。

brrobby.jpg


タウンページのような本のオブジェがあるが、あれはなんとベンチ。
ちょっと座るのははばかられるが、このように大英図書館のインテリアはモダンなセンスにあふれている。
それはこのメインエントランスを出て正面の広場にも言えること。

気持ちのいい広場があって、小さなカフェスタンドもあり、お昼にはここでランチをとる人も多い。
大英図書館のショップではポストカードと一緒に切手も買えるので、ここの広場で手紙を書いたりもした。
ちょっと目立たないところに、「アンネの木」が植えられている。
アンネ・フランク記念財団(だっけ?)から、1997年のオープン時に寄贈されたらしい。
なぜアンネ・フランク?
ちょっと不思議に思ったけれど、そういえばアンネには夢があった。
戦争が終わったら、将来は作家になりたいと願っていたのだ。
そういう関係からかはわからないし、案外アンネが死後何十年たっても知らずに訴えつづけている「ペンは剣より強し」という意味あいの方が重いのかもしれない。
戦争するより、本を読もう。
ということは、ともかくも言えそうだ。

この広場からユーストン駅方面に出ようとすると、1つの巨大なブロンズ像の前を通ることになる。
最初に見たとき、モダンもここに極まれり、と思ったものだった。

brnewton.jpg

↑残念ながら写メを撮っていないので、これはパンフより。

タイトルは「ニュートン」。
なるほど、現代の人間がニュートン像をデザインすると、こんな計算されつくした骨格のイメージになるのか、と納得したのだが……、
なんとこれ、ウィリアム・ブレイクの作品をもとにしたものだった。
……ブレイク、一体、あなたの時代に、どうやってこんなイメージを……と、呆然とした。
ちなみに、これ↓が、そのオリジナル。

newton.jpg


メガネは追加されたものらしい。
でもそれ以外は、ほぼブレイクのオリジナル通りだ。
このニュートンは、世界の謎を解こうとしているのではなく、まるで世界を構築しているようではないか?
そうした姿を、現代人が描くのならわかる気もする。
ヴィクトリア期以前のブレイクが、こういう世界観を持っていたということが、どうにも落ち着かない。
それでいて魅了される。
極貧のうちに死んでいったブレイクは、死後に作品が残ることもおぼつかない状態で、さらにその作品にこめられた真理がどうなってしまうか、気にはならなかったのだろうか。
伝えられているところによると、ブレイクは傲慢なまでに自信家だったらしい。
だとしたら、彼が確信していたことは、2つだろう。
人はいつか時間さえ支配できるさ。
それか、
人は変わってゆくわ……私たちのように。
a stranger from paradise とも評されるブレイク。
彼の時代に受け入れられなかったのも、無理はない。
時が見える人だったブレイク……残念だけれど、それは不自然なのよ。

館内には、その時代にもすでにあたたかい名声に包まれていた人々の作品。
そして広場には、ある種の不安のうちに生きて死に、よみがえった人々の記念碑。

大英図書館のバランス感覚も、モダンなものなのかもしれない。

なお、館内の図書室で書物を閲覧する場合、室内に持ち込めるのはえんぴつ(ボールペン不可)とノートのみ。
先が異常にとんがったもの(コンパス、針)なども一時あずかりになる。
「ペンは剣より強し」と先ほど書いたが、ペンで書かれた知恵を守るのは、ひとふりの剣を守るよりもずっと難しいのかもしれない。

at 13:54│Comments(0)TrackBack(0)イギリスから 

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